二人同時に口から放たれた言葉はどちらも疑問を呈していて、司に至ってははまるで破滅に追い込んでやろうかと言わんばかりだ。
「よくも顧客である俺の前でそんなことが言えるな?」
「道明寺さん、今自分のことを顧客って言いましたよね?あなたは自分の実力じゃなくて、地位や金でこいつのことを釣ろうとしてるんじゃないですか?」
まるでこれ見よがしの侮辱だと思われても仕方ないような言い方だ。
「自分の立場を利用するなんて、いかにも仕事至上主義の男のやりそうなことですね?」
「おまえ、俺にケンカ売ってんのか!」司の目に危険な色が浮かんだ。
「でも俺はそんな手は使いませんから。男としての魅力で牧野を振り向かせようと思って帰国してきたんです」
澤田はゆっくりと謎めいた笑みを浮かべていた。
「道明寺さん、あなたがニューヨークでこいつと会ってた頃、俺もニューヨークでこいつのこと見てましたから」
「セントラルパーク。それから水族館で」
つくしは息をのんだ。
「さ、澤田さん?」
水族館はつくしがひとり、考え事をするために足を運んでいた場所だ。
お気に入りの電気ウナギが放電する様子を見ながらぼんやり過ごしていた場所に澤田が?
「おまえ・・」司は猛然と挑むような目で見た。
「こいつのストーカーか?」
澤田は「まさか」と小さく笑い「ご冗談を」と平然と言ってのけた。
隣にいると相手の発散する何かが感じられるのだろうか。
道明寺がストーカーと言うのを聞いて、なぜかとんでもないイメージが次々と頭の中を駆け巡った。その中にはもちろん先日の野中さんの奥さんの件も含まれている。
つくしは寒気がして鳥肌の立つのを感じた。